
2026年7月28日、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宇城市と氷川町で震度7が観測されました。被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
地震の直後は、命を守り、安全な場所を確保することが何よりも優先されます。その後、数日から1週間ほど経つと、子どもにそれまで見られなかった心や体の変化が現れることがあります。
ただし、何らかの反応が出たからといって、直ちに心の病気になったということではありません。大きな恐怖や、生活環境が突然変わったことに対する、一時的な反応である場合が多くあります。また、目立った反応が現れない子どももいます。反応の現れ方や回復の速さは、一人ひとり違います。
今回は、地震から約1週間の時期に、子どもの変化をどのように見守ればよいかをお伝えします。
災害後の心のケアというと、子どもの気持ちを聞いたり、専門家によるカウンセリングを受けたりすることを思い浮かべるかもしれません。
避難生活では思うようにいかないことも多いですが、安全に過ごせる場所や、水分・食事、睡眠、常用薬など、できる範囲で生活を整えていくこと自体が、子どもの心を守ることにつながります。
今回は真夏の災害です。避難所や停電した住居、車内などでは、熱中症や脱水への注意が欠かせません。
子どもが「気持ち悪い」「頭が痛い」「だるい」と訴えたとき、それをストレスのためだと決めつけず、暑さや脱水、けが、持病の悪化など、身体的な原因も確認してください。国立成育医療研究センターも、今回の地震を受け、子どもの熱中症への注意を呼びかけています(※1)。
完璧な生活環境を整えることは難しいと思います。それでも、「水分をとれた」「少し眠れた」「薬を飲めた」といった一つひとつが、子どもの安心につながります。
災害後の子どもには、次のような変化が現れることがあります。
・夜泣き、怖い夢、寝つきの悪さ
・腹痛、吐き気、頭痛、頻尿
・保護者から離れられない、抱っこを求める
・一人でできていたことができなくなる
・赤ちゃん言葉やおねしょなどの「赤ちゃん返り」
・イライラする、怒りっぽくなる
・落ち着かず、普段以上にはしゃぐ
・ぼんやりする、集中できない
・地震のことを何度も尋ねる
子どもは、大人のように「怖かった」「不安でたまらない」と言葉で説明できるとは限りません。心の負担が、体の症状や行動の変化として現れることがあります。
また、災害直後には、意外なほど元気に見えたり、はしゃいだりする子どももいます。これも、緊張によって神経が高ぶっているために起こる場合があります。
こうした変化が見られたときには、すぐに叱ったり、「もう大きいのだから」と我慢させたりしないでください。
「怖かったから、そばにいたいんだね」
「眠れなかったんだね」
「今はうまくできなくても大丈夫だよ」
と、子どもに起きていることを言葉にしてあげてください。
子どもが地震のことを話し始めたら、途中で否定したり、話題を変えたりせずに耳を傾けてください。
「怖かったよね」
「また揺れるかもしれないと思うと心配だよね」
と、子どもの感じていることを受け止めます。
一方で、子どもが話したがらないときに、地震の状況や怖かった体験を詳しく聞き出す必要はありません。「どんな音がしたの?」「誰が泣いていたの?」などと、根掘り葉掘り尋ねることは、かえって子どもの負担になる場合があります。
「今は話さなくても大丈夫だよ。話したくなったら、いつでも聞くよ」
と伝えてください。子どものペースを守ることが大切です。
子どもを安心させたい一心で、「もう絶対に地震は来ないよ」と言いたくなることもあると思います。しかし、確実でないことを約束する必要はありません。
「また揺れたら、頭を守って、一緒に安全な場所へ行こう」
「大人が新しい情報を確認しているよ」
と、現実的にどう対応するかを伝える方が、子どもの安心につながります。
被災生活では、いつ家に戻れるのか、学校がいつ始まるのかなど、先の予定が分からないことが多くあります。
そのようなときに、長期的な見通しを無理に示す必要はありません。まずは、子どもが理解できる範囲の予定を伝えてください。
「次の食事は夕方だよ」
「今日はここで寝るよ」
「夜はお母さんと交代で、お父さんがそばにいるよ」
「明日の朝になったら、また新しい情報を確認しよう」
数時間先、今日一日の予定でも、子どもにとっては大切な見通しになります。
子どもができそうであれば、飲み物を配る、荷物を整理するなど、簡単な役割を一緒に行うこともあります。ただし、子どもに「家族を支えなければならない」という責任まで背負わせないようにしてください。
遊ぶことは、災害の深刻さを理解していないということではありません。絵を描く、折り紙をする、好きな本を読む、子ども同士で遊ぶなど、子どもらしく過ごせる時間は、緊張を緩めるために重要です。
前回、能登半島地震の際には、体を動かすことの大切さをお伝えしました。今回も、可能な範囲で体を動かすことは有用ですが、真夏のため、暑い場所での激しい運動は勧められません。
場所や時間を工夫して、涼しい環境で、無理のない遊びを選んでください。国立成育医療研究センターの資料でも、絵を描く、子ども同士で遊ぶなど、子どもらしい活動と、普段に近い生活リズムを確保することが勧められています。
テレビやスマートフォンで、倒壊した建物や被害の映像を繰り返し見せることは避けてください。幼い子どもや不安が強い子どもにとっては、過去の映像であっても、災害を何度も体験しているように感じられることがあります。
大人が情報を確認する時間と、テレビやスマートフォンから離れる時間を分けることも大切です。
保護者自身も被災者です。眠れない、食欲がない、イライラする、物音や揺れに過敏になるといった変化が起こることがあります。
熊本では、平成28年熊本地震を経験した方も少なくありません。今回の揺れによって、当時の光景や恐怖が急によみがえり、強い緊張を感じる方もいるでしょう。平成28年熊本地震では、短期間に震度7の地震が2度起きた経験があり、その記憶が今回の不安を強める可能性があります。
子どもの前で、常に落ち着いて見せなければならないわけではありません。
「お母さんも少し心配しているよ。でも、大人が情報を確認しながら、安全に過ごせるように考えているよ」
と、事実と対処を一緒に伝えてください。
一人で抱え込まず、家族や周囲の大人と交代で休んでください。保護者が休息を取ることは、子どものケアを放棄することではなく、ケアを続けるために必要な行動です。
相談が必要かどうかは、「地震から何日たったか」だけではなく、症状の強さ、悪化しているかどうか、日常生活への支障によって判断します。
次のような状態がある場合には、かかりつけの小児科、地域の医療機関、自治体の保健・心理相談窓口などに相談してください。
・ほとんど眠れない、食べられない状態が続く
・恐怖や興奮が強まり、落ち着く時間がない
・一人になることを極端に恐れ、日常生活が送れない
・学校や園が再開しても、強い不安で通えない状態が続く
・人との関わりを避け、ほとんど話さなくなる
・地震の場面が繰り返しよみがえり、強い苦痛が続く
・保護者だけでは子どもの安全を守ることが難しい
「死にたい」「消えたい」と話す、自分や他人を傷つけようとする、現実との区別がつかないほど混乱している場合には、様子を見ず、直ちに医療機関へ相談してください。緊急性が高い場合には、119番を利用してください。
また、水分がとれない、尿が極端に少ない、意識がぼんやりする、何度も吐く、呼吸が苦しい、強い頭痛やけががある場合には、心の問題と考える前に、速やかに医療機関を受診してください。
被災によって保険証やマイナ保険証が手元にない場合でも、氏名、生年月日、連絡先、加入している医療保険に関する情報を伝えることで、保険医療を受けられます。受診をためらわないでください(※1)。
災害後の子どもの心を守るために、特別なことを一度に行う必要はありません。
まず、体の安全と水分、食事、睡眠を守る。
子どもの変化を叱らずに見守る。
話してきたときには聞き、話したくないことは無理に聞き出さない。
今日一日の小さな見通しと、子どもらしく過ごせる時間をつくる。
こうした小さな対応を繰り返すことが、子どもに「自分は守られている」「困ったときには大人を頼ってよい」という感覚を伝えます。
回復の速さは、一人ひとり違います。以前と同じ状態に早く戻そうと急がせる必要はありません。子どもだけでなく、保護者自身も支援を受けながら、今日できることを一つずつ積み重ねてください。
参考資料
・(※1) 国立成育医療研究センター こころの診療部「ご家族の皆様へ~災害後の子どもたちの心を守るために~」
・日本小児科学会・日本小児精神神経学会・日本小児心身医学会「子どもの心の対応マニュアル」
・国立成育医療研究センター「令和8年熊本地震で被災された皆さまへ」

執筆・監修者プロフィール:
中村 俊一郎先生
慶應義塾大学医学部卒、同病院 小児科
小児科専門医・小児心身医学認定医・公認心理師・出生前コンサルト小児科医/子どものこころ専門医*
普段は大学病院で病気のお子さん、病気を抱えるお子さんのきょうだい・親御さんのメンタルヘルスケアを担当。
<子どもの心の健康>から<日本の社会を変える>を合言葉に小児科医として活動中。
*子どものこころ専門医とは:小児精神医学、小児心身医学を基礎として、子どもの精神疾患、神経発達症(発達障害)、心身症、不登校、虐待など、子どものこころの諸問題に対応する専門医です。
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