
現在、国内外で麻疹(はしか)の患者数が増加しています。米国・英国をはじめ世界各地で流行が拡大しており、日本でも感染報告が急増しています。麻疹はワクチンで確実に予防できる感染症ですが、かかってしまうと重症化や重い後遺症を残すことのある感染症として懸念されます。
麻疹の流行には、複数の要因が重なっています。
流行を防ぐためには、集団全体のワクチン2回接種率を95%以上に維持する必要があります。しかし日本では、2024年度の第1期接種率が92.7%と、流行防止に必要な水準を下回っており、低下傾向が続いています。接種率が下がると、免疫を持たない人が社会の中に少しずつ増え、ウイルスが持ち込まれた際に感染が広がりやすくなります。
新型コロナウイルス感染症対策の緩和以降、海外渡航者・訪日外国人ともに大幅に増加しています。ベトナム・インドネシアをはじめアジア各国、米国・英国などでも流行が拡大しており、海外から国内へウイルスが持ち込まれるリスクが高まっています。国内の感染報告も、輸入症例を発端とした二次感染が中心です。
1972年10月1日〜1990年4月1日の間に生まれた方(現在の36〜53歳)は、定期接種制度の変更前にあたり、1回しか接種を受けていない方が多くいます。1回接種では約5%の人に十分な免疫がつかず、時間の経過とともに抗体が低下している可能性もあります。現在、社会の中核を担い活動範囲も広いこの世代が、感染・拡散の連鎖において重要な位置を占めています。
少ないながらも抗体が残っている場合に感染すると修飾麻疹と言って症状は軽症のことがあります。この修飾麻疹の増加により、典型的な症状が出にくく、「風邪」と判断されたまま時間が経過し、その間に周囲へ感染を広げてしまうことも流行の拡大に影響しています。
麻疹は、麻疹ウイルスによる感染症です。空気感染するウイルスで、感染力は現存するすべての感染症の中で最強クラスです。免疫のない人が感染者にさらされた場合、家庭内などの密接な接触環境では約90%が感染すると報告されています。
感染経路は空気感染・飛沫感染・接触感染の3つです。換気が悪い室内では、感染者がいなくなった後もウイルスが漂い続け、感染リスクが持続します。
感染から発症まで7〜21日(平均10〜12日)の潜伏期間があり、発症の1日前から解熱後3日を経過するまで感染力があります。症状が出る前からすでに周囲に感染させてしまう点が、この感染症の難しさの一つです。
麻疹は大きく3つの段階をたどります。
38〜39℃の発熱、鼻水、咳、結膜炎が現れます。この時期は風邪と見分けがつきにくく、感染力が最も高い時期でもあります。頬の粘膜に「コプリック斑」と呼ばれる白い小さな斑点が2〜3日間だけ現れることがありますが、確認できないこともあります。
耳の後ろや顔から始まる赤い発疹が、体幹・四肢へと広がります。高熱(40℃前後)を伴い、この時期が最も体調が悪くなります。
発疹が色素沈着を残しながら消退し、熱も下がっていきます。ただし、麻疹ウイルスは感染後に免疫記憶細胞を破壊するため、回復後も数週間〜数ヶ月にわたって免疫機能が低下し、他の感染症にかかりやすい状態が続きます(免疫健忘)。
近年、1回のワクチン接種を受けた方などが感染した場合、典型的な経過をたどらない「修飾麻疹」が増加しています。発熱が軽度だったり、発疹が淡く分かりにくかったり、コプリック斑が見られないこともあります。症状が軽くても感染力は保たれている場合があるため、注意が必要です。
麻疹は重篤な合併症を引き起こすことがあります。
肺炎:入院を要することが多く、乳幼児・免疫不全者で重症化しやすい
脳炎:約1,000人に1人に発症。後遺症として知的障害・麻痺が残ることがある
SSPE(亜急性硬化性全脳炎):感染の数年後に発症する致死的な脳炎。特に1歳未満での罹患で発症率が高い
中耳炎:頻度の高い合併症で、難聴につながることもある
妊婦の感染:流産・早産のリスクが上昇する
先進国でも1,000〜2,000人に1人程度が死亡するとされており、決して軽視できない感染症です。
現在、麻疹に対する特効薬(抗ウイルス薬)はありません。治療は症状に合わせた対症療法が中心です。
■十分な安静と水分補給
■発熱に対する解熱剤(アセトアミノフェン)
■咳・鼻水などへの対症療法
細菌性肺炎・中耳炎などの二次感染が起こった場合には、抗菌薬が使用されます。
以下の場合は入院での管理が必要になることがあります。
■高熱・脱水が続く場合
■肺炎・呼吸困難を合併した場合
■脳炎の兆候(意識障害・けいれんなど)
■乳幼児・免疫不全者・妊婦の重症例
発熱・発疹・咳・鼻水・目の充血といった症状が重なった場合には、麻疹の可能性を念頭に置く必要があります。
ただし、麻疹かどうかを確定するには血液検査(IgM抗体など)やPCR検査が必要であり、症状だけで診断を確定することはできません。検査は発疹出現後のタイミングによって適切な方法が異なります(PCR検査は発疹出現後7日以内、IgM抗体検査は発疹出現後4〜28日が目安)。
麻疹は感染力が非常に強いため、受診する際には必ず事前に医療機関へ電話で連絡し、「麻疹の可能性があるかもしれない」と伝えたうえで指示を仰いでください。待合室での待機は他の患者への感染リスクとなるため、隔離された形で診察を受けられるよう配慮が必要です。
オンライン診療では、麻疹が疑われる症状や接触歴がある場合には、適切な医療機関への受診をご案内します。
麻疹は感染症法の五類感染症(全数把握対象)であり、診断した医師は直ちに保健所に届け出る義務があります。
なお、麻疹患者と接触した可能性がある場合、接触後72時間以内にワクチンを接種することで発症を予防できる可能性があります※。ワクチン接種が適さない場合でも、接触から6日以内であれば免疫グロブリン製剤の投与が考慮されることがあります。心当たりのある方は、速やかにかかりつけ医にご相談ください。
※妊婦・免疫不全者を除く
MRワクチン(麻疹・風疹混合)の2回接種で、ほぼ確実に予防できます。1回接種で約93〜95%、2回接種で97〜99%の予防効果があります。
お子さんを麻疹から守る最も確実な方法は、定期接種を時期を逃さず受けることです。
現在の流行では、感染者の中心は20〜40代の成人です。1歳未満の乳児はワクチンをまだ接種できないため、身近な大人から感染するリスクがあります。1歳の誕生日を迎えたら、できるだけ早く接種することが、お子さん自身を守る第一歩です。
第1期(1歳):1歳の誕生日を迎えたら、できるだけ早く接種してください。母親からの移行抗体が消えるこの時期が、最初の大切な接種機会です。
第2期(就学前の1年間):小学校入学前年度に行います。1回目で免疫が十分につかなかった場合の補完が目的です。この機会を必ず活用してください。
母子健康手帳で接種記録を確認し、まだの場合はかかりつけ医にご相談ください。
日本のワクチン接種制度は時代によって変わってきたため、生まれた年代によって免疫の状況が大きく異なります。
| 世代 | 状況 | 推奨される対応 |
|---|---|---|
| 平成2 (1990)年4月2日以降生まれ | 2回接種制度の対象世代だが、接種歴不明・1回のみの方も | 母子健康手帳で2回の記録を確認。不明・未完了ならかかりつけ医に相談 |
| 昭和47 (1972)年10月1日~平成2 (1990)年4月1日生まれ | 1回接種のみの方が多い「空白世代」 | 抗体検査で免疫を確認するか、MRワクチンの追加接種(任意接種)を検討 |
| 昭和47 (1972)年9月30日以前生まれ | 幼少期の自然感染で免疫を持つ方がほとんど | 原則、追加接種は不要。感染歴がない場合や免疫不全のある方はかかりつけ医に相談 |
接種歴が確認できない場合は「未接種」とみなして2回接種を行うか、抗体検査を受けたうえで医師の判断に基づいて対応することが推奨されます。
妊娠中に麻疹に感染すると、流産・早産のリスクが上昇します。また、MRワクチンは生ワクチンのため、妊娠中は接種できません。妊娠を希望される方は、妊娠前に以下を確認しておくことをお勧めします。
STEP 1:抗体検査を受ける
血液検査で麻疹の抗体価を確認します。自費診療になる場合がありますが、かかりつけ医や産婦人科にご相談ください。
STEP 2:抗体が不十分であればワクチンを接種する
抗体価が基準を下回っている場合は、MRワクチンの接種が推奨されます。
STEP 3:接種後2ヶ月は避妊する
MRワクチンは生ワクチンのため、接種後2ヶ月間は妊娠を避けることが必要です。
授乳中は接種可能です。
麻疹はワクチンで確実に予防できます。まずは以下を確認してみてください。
母子健康手帳でご自身と家族の接種記録を確認する
接種歴が不明・1回のみの場合は、かかりつけ医に相談する
発熱+発疹があり麻疹が疑われる場合は、受診前に必ず医療機関へ電話で連絡する
麻疹患者との接触歴がある場合は、72時間以内に速やかにかかりつけ医に相談する
予防することが大切な感染症です。ワクチンは1歳以降で接種が可能なため、未接種の乳児を守るためには、集団のワクチンの接種率や抗体保持率をあげることが必要となってきます。あらかじめワクチン接種確認と麻疹について知っておくことで、いざという時の対応がスムーズになると思います。
解説者:小児科専門医 みてねコールドクター小児医療アドバイザー 風間尚子先生

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