子どもの胃腸炎｜おすすめの飲み物と水分補給のポイントを小児科医が解説

子どもの胃腸炎では、嘔吐や下痢による脱水症状が最も注意すべきポイントです。飲ませ方を間違えると、せっかくの水分が逆効果になることもあります。

この記事では、小児科医の視点から、胃腸炎時の正しい水分補給の方法とおすすめの飲み物、避けるべき飲料、家庭でのケアや受診の目安をわかりやすく解説します。焦らず、少量ずつ、正しい方法でお子さんの体を守りましょう。

胃腸炎とは？嘔吐や下痢が起こる原因と子どもの特徴

子どもの胃腸炎は、ウイルスや細菌の感染によって胃や腸が炎症を起こす病気です。特に冬から春にかけてはノロウイルスやロタウイルスによる感染が多く見られますが、夏にもエンテロウイルスなどが原因となることがあります。

嘔吐や下痢は、体の中に入ったウイルスを外に出そうとする自然な防御反応です。症状自体はつらいものの、体がしっかり反応している証拠でもあります。ただし、子どもは体内の水分量が多く、水分喪失のスピードが速いため、脱水症状に陥りやすい点に注意が必要です。

多くの子どもは数日で回復しますが、症状が急激に悪化することもあります。特に「嘔吐が続く」「おしっこが出ない」「ぐったりしている」ときは、早めの受診を心がけましょう。

家庭での最も大切なケアは、水分と電解質の補給です。次項では、その原因となるウイルスと感染経路を詳しく見ていきます。

ウイルス性胃腸炎の主な原因と感染経路

ウイルス性胃腸炎の多くは、次のウイルスによって引き起こされます。

原因ウイルス	主な流行時期	主な症状
ノロウイルス	冬（11月〜3月）	嘔吐・下痢・発熱・腹痛
ロタウイルス	冬〜春（12月〜4月）	白っぽい便、発熱、強い嘔吐
アデノウイルス	通年（やや夏に多い）	下痢、発熱、喉の痛み
エンテロウイルス	夏	軽度の下痢、発疹を伴うことも

感染経路の多くは、経口感染（口からウイルスが入ること）です。ウイルスが付着した手や食器、ドアノブ、おもちゃなどを介して感染が広がります。少量のウイルスでも感染するため、家庭内感染には特に注意が必要です。

さらに、ロタウイルスやノロウイルスは、症状が治まった後でも1〜2週間ほど便中にウイルスが排出されることがあります。おむつ交換やトイレのあとには、石けんと流水でしっかり手を洗うことが大切です。アルコール消毒では十分に除去できないため、石けん＋流水が最も有効です。

💡 ポイント

• 胃腸炎の原因は「食べ物」よりも「手や環境」からうつることが多い
• 感染後すぐに症状が出ない（潜伏期間は1〜3日）
• 嘔吐物や便の処理時には手袋とマスクを使用し、しっかり消毒する

胃腸炎で嘔吐があるときの水分補給｜与え方のコツと注意点

胃腸炎の初期は、嘔吐が続いて水分を受け付けない時期があります。
このときに焦って水分を多く飲ませると、胃が刺激され、再び嘔吐を引き起こしてしまいます。大切なのは、「何を飲ませるか」よりも「どのように与えるか」です。

嘔吐が落ち着くまでは胃を休ませ、様子を見ながら少量ずつ再開するのが基本です。初期対応の流れを以下にまとめます。

状況	与える量・間隔	ポイント
嘔吐直後	与えない（30〜60分休ませる）	胃をしっかり休ませる
嘔吐が落ち着いたら	スプーン1杯（約5ml）ずつ	5〜10分間隔で少量をこまめに
吐かずに飲めるようになったら	10ml→20mlと少しずつ増やす	コップやストローで一気に飲ませない
吐き戻しが再発したら	再び30分休憩	無理に続けず胃を落ち着かせる

このように、「少量・こまめに・ゆっくり」が基本です。飲ませる量を少なく保つことで、胃の負担を減らし、吸収を助けます。

嘔吐後30〜60分の休止と再開ステップ（胃腸炎時）

吐いた直後は、胃が強く刺激されており、水分を入れると再び嘔吐する可能性が高くなります。そのため、30〜60分ほど何も与えずに休ませる時間が必要です。

再開のステップは次のとおりです。

53. ティースプーン1杯（約5ml） の水分を与える
54. 5〜10分待ち、吐かないか確認
55. 吐かない場合は、同量をもう1回与える
56. これを3〜4回繰り返し、吐き戻しがなければ量を倍に（10ml→20ml）

この方法なら、胃に急な負担をかけずに安全に水分を補給できます。
また、飲ませる際には、子どもを座らせるか、頭をやや起こした姿勢を保つと誤嚥のリスクが減ります。横になったままでは吐物が気道に入りやすいため注意しましょう。

💡 ポイント

• 嘔吐後は30〜60分の「休ませる時間」が最も大切
• 一気に飲ませると再嘔吐の原因になる
• スプーンやスポイトを活用して少量ずつ与える

このように、焦らずに段階を踏むことで、胃腸をいたわりながら確実に水分を補給できます。次項では、嘔吐が落ち着いたあとの具体的な飲み物の選び方について説明します。

胃腸炎の下痢時：おすすめの飲み物／避けたい飲み物

胃腸炎で下痢が続くときは、体から水分と電解質（ナトリウム・カリウム）が大量に失われるため、単なる水分補給では不十分です。

脱水を防ぐためには、電解質と糖分をバランスよく含んだ飲み物を選ぶことが大切です。
下痢の時期は、腸が刺激に弱く、濃い糖分や脂質を含む飲み物をとると、症状が悪化する場合があります。ここでは、胃腸にやさしい飲み物の選び方と、避けるべき飲み物を具体的に解説します。

胃腸にやさしい飲み物の選び方

子どもの胃腸炎で最もおすすめなのは、経口補水液（ORS：Oral Rehydration Solution）です。
これは、嘔吐や下痢で失われた水分と電解質を素早く補うように設計されており、医学的にも脱水予防に最適とされています。

代表的な製品には以下のようなものがあります。

飲み物名	特徴	与えるポイント
OS-1（オーエスワン）	医療用に近いバランス。やや塩味が強い	冷やすと飲みやすくなる
アクアライトORS	小児向けに甘さが控えめ	乳幼児にも与えやすい
経口補水パウダー（粉末タイプ）	保存性が高く災害時にも使用可能	説明書通りの水量で溶かす

経口補水液を嫌がる場合は、湯冷まし・麦茶・番茶（ノンカフェイン）などで代用できますが、これらは塩分や糖分が不足しているため、長期間の補給には向きません。
あくまで「つなぎ」として使い、飲めるようであれば経口補水液を優先しましょう。

💡 ポイント

• 甘すぎず、塩分を含む飲み物が理想的
• 常温〜やや冷たい温度が飲みやすい
• 経口補水液を常備しておくと安心

スポーツドリンクやジュースはNG？（浸透圧と糖分の観点）

スポーツドリンクや果汁ジュースは、一見良さそうに見えても、糖分の濃度が高すぎるため、腸内の水分バランスを崩す原因になります。

糖分が多い飲み物を摂ると、腸が水分を吸収できず、逆に水分が腸の中に引き込まれてしまう「浸透圧性下痢」を起こすことがあります。

胃腸炎時に避けたい代表的な飲み物は以下の通りです。

飲み物	理由
100%果汁ジュース（りんご・ぶどうなど）	糖分が濃く、下痢を悪化させやすい
スポーツドリンク（ポカリスエット・アクエリアスなど）	脱水には塩分が足りず糖分過多
炭酸飲料・甘い清涼飲料水	胃腸を刺激して吐き気を誘発する
牛乳・乳酸菌飲料	消化不良を起こし、下痢を長引かせることがある

一方、どうしても経口補水液が飲めないときは、スポーツドリンクを半分の水で薄めて一時的に代用することは可能です。ただし、これは応急処置として短時間に留めましょう。

⚠️ 注意

• 飲める量が少ないときほど、内容の質が大事
• ジュースや甘味飲料は、一時的に元気が出るように見えても逆効果
• 牛乳・ヨーグルトは回復期まで控える

胃腸炎で脱水を防ぐ家庭観察：尿・口唇・涙・活動性

胃腸炎で最も注意が必要なのが脱水症状です。嘔吐や下痢が続くと、体の水分と塩分が急速に失われ、体温調整や血液循環がうまくいかなくなります。

特に子どもは体内の水分比率が高く、体重に対して失われる水分量の影響が大きいため、短時間で脱水が進むことがあります。

脱水は見た目では分かりにくいため、日常的に「おしっこ」「唇」「涙」「表情や動き」を観察することが大切です。保護者の目で早期に異変に気づくことで、重症化を防ぐことができます。

脱水サインのチェックリスト（尿量・色・口の乾き）
以下は、家庭で確認できる代表的な脱水サインです。

観察項目	正常な状態	脱水が疑われる状態
おしっこ	半日で2回以上出ている／色が淡い	6〜8時間以上おむつが濡れない、濃い黄色
口・唇	しっとり潤っている	乾いてカサカサしている
涙	泣くと涙が出る	泣いても涙が出ない
目	ふっくらしている	くぼんで見える
肌のハリ	指でつまむとすぐ戻る	つまんでも戻りが遅い
全身の様子	元気に動く、反応が良い	ぐったりしている、呼びかけに反応が鈍い

これらのサインが複数見られた場合は、脱水が進行している可能性があります。特に、おしっこが半日以上出ていない場合や、意識がぼんやりしているときは、夜間や休日でもすぐに医療機関を受診してください。

💡 ポイント

• 「尿・口・涙・元気さ」の4点を毎日観察
• 嘔吐が治まっても、下痢が続くと脱水は進む
• 小児では短時間で悪化するため「様子を見る」より「早めの受診」が安心

すぐに受診が必要な危険サイン

次のような状態が見られた場合は、自宅でのケアを続けず、すぐに医療機関を受診してください。

• 水分をまったく受け付けない
• 嘔吐が止まらず、噴水のように吐く
• おしっこが半日以上出ていない
• ぐったりして、呼びかけに反応しない
• 強い腹痛を訴える、血便が出る
• 高熱が3日以上続く

これらの症状は、脱水が重度に進行しているか、あるいは胃腸炎以外の病気（腸重積や細菌感染など）の可能性もあります。
受診の際は、吐いた回数・おしっこの回数・飲んだ量をメモして伝えると、診断がスムーズです。

⚠️ 注意

• 「機嫌が悪い」だけでなく、「反応が鈍い」場合は要注意
• 夜間でも受診が必要な場合があるため、迷ったら早めに相談を

回復期の飲み物と食事の戻し方：BRATに偏らない実践

胃腸炎の症状が落ち着いてきたら、次のステップは飲み物と食事の再開です。
ただし、回復期の胃腸はまだ弱っており、いきなり通常の食事を与えると再び嘔吐や下痢を起こすことがあります。大切なのは、「水分 → 糖分 → 軟らかい食事」の順に少しずつ進めることです。

最初は水分中心にして、胃腸が慣れてきたら糖分を含む飲み物ややわらかい食事へ移行します。下痢が続いていても、食事を完全に止める必要はありません。体力の回復のためには、エネルギーと塩分を少しずつ補うことが重要です。

嘔吐・下痢が落ち着いた後のステップ

以下は、回復に合わせた食事再開の目安です。
※年齢や症状により前後して構いません。

段階	与える内容	ポイント
① 水分補給期（発症直後〜半日）	経口補水液・湯冷まし	嘔吐がなければ5〜10分おきに少量ずつ
② 糖分補給期（24時間前後）	りんごゼリー・すりおろしリンゴ・冷たいおかゆ	糖と水分を一緒に補う。甘すぎないものを選ぶ
③ 軟食期（2〜3日目）	おかゆ・うどん・豆腐・じゃがいも・スープ	消化の良い炭水化物と塩分を補給
④ 通常食への移行期（3〜5日目）	鶏ひき肉・白身魚・卵スープなど	油・乳製品・生野菜はまだ控える

💡 ポイント

• 「少量ずつ・やわらかく・薄味で」が鉄則
• 甘味や塩分の強い食品は胃腸を刺激するため控える
• 下痢があっても食べられる範囲で食事を続けてOK

「BRAT食（バナナ・おかゆ・リンゴ・トースト）」は有名ですが、それだけに偏ると栄養が不足します。特にタンパク質（豆腐・卵・白身魚）も回復期には必要なため、体調を見ながら少しずつ取り入れましょう。

消化にやさしい食事と避けたい食品

胃腸炎の回復期におすすめの食材は以下の通りです。

◎食べやすい食品

• 白がゆ、やわらかいうどん、そうめん
• 豆腐、じゃがいも、かぼちゃ、にんじんスープ
• りんごゼリー、バナナ、冷たいスープ

×避けたい食品

• 牛乳・ヨーグルト（乳糖で下痢を助長）
• 揚げ物・脂質の多い料理
• 生野菜・繊維の多い果物
• 味の濃い調味料（ケチャップ、マヨネーズなど）

⚠️ 注意

• 「元気になったから」と急に普段食に戻すのはNG
• 胃腸の回復には時間がかかるため、2〜3日は慎重に

お子さんが「食べたい」と言えるようになれば、体が回復してきたサインです。焦らず、少しずつ食事の幅を広げていきましょう。

まとめ：焦らず、少量ずつの水分補給で脱水を防ごう

子どもの胃腸炎は、嘔吐や下痢を繰り返すつらい病気ですが、ほとんどは数日で自然に回復します。
家庭でのケアで最も重要なのは、脱水を防ぐための正しい水分補給です。

• 嘔吐後は30〜60分胃を休ませる
• スプーン1杯ずつ、5〜10分おきに少量を与える
• 経口補水液（ORS）を優先し、糖分の多い飲料は避ける

また、下痢が長引く場合や、おしっこが出ない・ぐったりしているときは、早めに小児科を受診しましょう。焦らず、お子さんの回復ペースに合わせた水分補給を心がけることが、胃腸を守る一番の近道です。

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